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麗蘭(REIRANNG) [悲恋]

シーサー (2).JPG

  霧の中を女が独り歩いていた。一歩一歩がたどたどしく、何かに憑依れたかのようだった。「脱力感」麗蘭を覆っていたのは深いそれかも知れなかった。
 霧の冷たさが心地良かった。いや、むしろ自分にはふさわしい寒さだとも思った。
 どこへ行くともあてもなかった。ただ「もう自分には行く場所などどこにも無い」とぼんやりと思っていた。その場所が一体どこなのか彼女には見当もつかなかったが、それも大した事ではなかった。

 その日、麗蘭は恋仲だった男-清譚-を殺し、家を飛び出して来たのだった。どこをどう辿ったのかも覚えていない。無我夢中で走ったのだ。「嘘吐き」「裏切り者」走りながらもそんな言葉が胸に浮かび、涙が溢れた。
 清譚を殺した事に悔いはなかった。自分を騙し、食い物にした男。ただ、そんな男が好きになってしまった自分が嫌だった。-憎めぱ憎むほどに鮮やかに蘇る肌の温もり。カラダの芯まで突き抜ける快感…。清譚は麗蘭が初めて見る長い舌と信じ難いほどの『モノ』を持っていた。
 だがそれは彼女一人のものでは無かった。清譚は時々金を無心してきた。「大した額でも無いし…」麗蘭は都度都度に用立てて応えた。清譚を支える自分に酔っていたのだ。
 そんなある日、清譚には許嫁がいることを知った。その女が肺病やみで、清譚は医者代薬をかき集めるのに四苦八苦なのだと言う…
 麗蘭の清譚への恋心は冷たい憎悪に変わった。出会ってからの日々を思うと、殺して尚足りない位の気持ちだったのだ。

 微かにせせらぎが聞こえて来た。麗蘭は喉の渇きを感じた。無理もない。ずっと走って来たのだ。どこかに川があるはず。麗蘭は水を求めて歩き続けた。
 ほどなく河原近くの狭い平地に庵をみつけた。庭石に腰掛け、老爺が何かやっていた。「良かった。あそこへ行けば水を飲ませてもらえる…」麗蘭は疲れた足を引きずりながら庵へ向かった。
 「あのう、もし…」 老爺は庭に据えた火鉢のような瓶に短い棒をかざし、釣りをしている最中だった。メダカでも入れてあるのだろう。庵に近づくにつれ、黒く小さな獲物が釣り上げられるのが見えた。
 「あのう、もし…。宜しければお水を一杯頂きたいのですが」
 老爺の背中に再度声をかけた。麗蘭の声に老爺が振り返り、驚きの声をあげた。
 「よくぞまあこんな山奥まで…」
 急いで水瓶を差し出した。
 「お一人か?」
 「供も付けずに良くもまあ…」
 麗蘭は渡された水を一気に飲み干した。
 「ああ美味しいお水。どうもありがとうございます」
 仙人のような風貌をした老爺は笑みを浮かべながら麗蘭を見ていた。彼女の渇きが収まるのを見て取ると、悪戯っぽく言った。
 「その様子。よほど心が疲れているのだな…」
 「これを少し進ぜよう」
 老爺は先程釣り上げたメダカを入れた壺を差し出した。
 「何ですか?それは」
 「これか?これは儂が百年かかってようやく作り上げた秘薬じゃよ。どんな病もこれを飲めば治らぬものはない!」
 「儂はこれを蜃気香と名付け、毎日欠かさず飲んでおる」
 「おかげで百歳過ぎた今でも病知らず。元気じゃ元気じゃ」
 老爺は呵々と笑った。

 差し出された杯を麗蘭は試しに飲んでみた。口の中いっぱいに膨らむ香気は甘い果実を思わせた。
 「どうじゃ?美味じゃろう…」
 老爺は麗蘭が飲んでは注ぎ飲んでは注いだ。歩き続けた疲れもあり、麗蘭は次第に眠くなって来た。
 おぼろげな意識の中で、人の気配を感じた。隣に横たわり、愛撫されていた。辺りは暗く、僅かに月明かりが窓から差し込むだけだった。
 男の顔は見えない。だがそれは清譚に違いなかった。困惑した。清譚は殺してしまったはずだった。だが、彼女を優しく撫でる仕草は懐かしくも愛おしいものだ。
 麗蘭は胸が固くなるのを感じた。と、同時に下からも熱い液が溢れて来た。男は指先でそれを確かめると、乳に舌を這わせた。麗蘭の敏感な箇所を自身の液で潤しそっと撫で上げる。触れているかいないか、微妙な感覚。麗蘭は男が清譚であると確信し、身を委ねた。
 舌は胸からうなじ、うなじから胸へと動く。口を吸い合い舌を絡めた。その間中、指が秘部を撫で続けた。麗蘭は声をたてるのを我慢出来なかった。
 清譚の指が十分に濡れた花弁を掻き分けて、中へ入って来た。麗蘭は「ああっ」と小さく吐息をついた。指は彼女の中を動き回った。そっとさすり、あるいは「グンッ」と突いて来た。その度に麗蘭の口からは大きな声が漏れ出る。それは、我慢しようとすればするほど止まらなかった。麗蘭の感じる箇所を熟知した男の指は、微妙に場所を変えては刺激して回った。麗蘭はその度に達しそうになるのを懸命に堪えた。
 やがて清譚は麗蘭の脚を大きく開かせると、股関に顔をうずめた。秘核に舌を這わせ、片手は乳もう片方は相変わらず花弁の内側を這い回っている。舌は微かに或いは強く秘核を舐め回す。麗蘭は自分の声が次第に大きくなるのを止められなかった。
 花弁から指が抜かれた。同時に清譚の舌も秘核を離れた。「来る…」麗蘭は心ときめかせていた。清譚は麗蘭の潤った花弁に吸い付くと、舌を差し込んで来た。
 ざらりとした感触。生暖かく柔らかなそれは、麗蘭の中を動き回った。指とは違う。柔らかい分もどかしく、それだけに早く清譚自身が欲しくなるのだ。清譚も勿論それを知っている。知った上で焦らしているのだ。
 前戯で十分呷られ、麗蘭は頭の中が真っ白になっていた。
 「ああ…清譚」「早く頂戴…」
 清譚はそこまで言わせると、やおら起き上がり彼を麗蘭の中へと挿入するのだった。

麗蘭は目を覚ました。老爺の庵の一間のようだった。
 「やはり夢…」
 麗蘭は暫し余韻に浸っていた。切ない想いが胸に溢れた。自然、涙がこぼれた。清譚は憎かった。だがそれ以上に愛おしかった。自分の心の置き場が分からない。たださめざめと涙をこぼすだけだった。
 「どうじゃな?蜃気香の効き目は?」
 老爺が部屋に入って来た。
 「この薬は人の心を素直にするのじゃ…」「素直になれば邪念が抜けて、気持ちがすっと軽くなる」
 そうか…そうなのか。麗蘭は自分の心に問いかけてみた。「まだあの清譚が好き?」心の中では相変わらず憎しみと愛情がせめぎ合っている。いくら考えても「素直な気持ち」など、簡単には出てきそうも無かった。

 開け放たれた窓から見てみると、老爺はまた庭石に腰掛け、瓶の中の釣りに戻っていた。
 「うーむ、美味じゃ美味じゃ」
 蜃気香を飲んでいるらしい。
 麗蘭は悩むのに疲れ、老爺のそばに行ってみた。
 意外なことに、瓶の中には水が無かった。ただ白く濃いもやが渦巻いているだけだった。そこへ老爺が糸を垂れると、暫くして枝先が震え、黒く小さな獲物が釣り上げられるのだ。それは次々と釣れてきた。老爺は獲物を手に取ると、脇に置いた壺に放り込んだ。
「それは何ですか?」
「これか?」「これは蜃気香の元じゃよ…」
 老爺は麗蘭を振り返りもせず応えた。
「どうじゃな?もう一杯飲んみんかな?」
 老爺は杯になみなみと注いだ蜃気香を差し出した。麗蘭はつい先程の夢を思い出し一気に飲み干した。
「そうじゃ、そうじゃ」「美味じゃろう?美味じゃろう?」
 麗蘭はさっきとは違い、ただ一杯でくらくらしてきた。恐らく酔いが残っていたのだろう。
 そんな彼女に老爺が語りかけてくる。
 「自分の心に素直になることじゃ」
 老爺は笑みを湛えながら蜃気香を注いだ。
 やがてまた麗蘭は酔っていく。酔えば酔うほどに先程見た夢に心が捕らわれた。
「清譚…」
 あまりの恋しさに呟いた時、待ち構えたかのように老爺の手が伸びて来て麗蘭を壺の中へと放り込んだ。
「上玉、上玉」
「今度はさぞ出来がようなろうて」
 壺の中で麗蘭は老爺がはしゃぐ声を聞いた。
「この世の際に教えてやろう。蜃気香とは人の欲を煎じたものじゃ」
「あれなる瓶の行く先は現世。欲の餌を垂らせば直ぐに食らいついて来るは来るは」
「欲は深ければ深いほど、良い香が出来る」
「お前は見たことも無いほど強欲な女じゃ」
 そう言うと老爺はからからと笑った。

 闇。
 壺の中は明かりも無く、何も見えなかった。が、暫くすると闇にも慣れて来た。どうせ行く当ても無い身。壺の中で朽ち果てるのも運命だったのかも。蜃気香の酔いが残っていたのか、彼女はそんな気持ちになった。
 それとともに、「闇」は麗蘭にある懐かしさを思い出させた。清譚と過ごした時間はいつも闇の中だった。「あの頃は月の明かりがあった」
だが、暗闇の中で、手を伸ばせば清譚の温もりに触れられる。そんな想いに捕らわれる麗蘭だった。

シーサー (3).JPG


タグ:哀愁
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